第4話|映像では「開いている」のに、なぜ「開くな」と指導されるのか?――理想の回転と減速――

バッティング理論

この第4話では、指導現場で最も混乱を生みやすい「開く/開かない」論争を取り上げます。

「開くな」と言われる一方で、「腰を回せ」と言われる矛盾

バッティング指導では、しばしば次のような言葉が並ぶことがあります。

  • 「胸を開くな」
  • 「体が開いている」
  • 「もっと腰を回せ」
  • 「下半身を使え」

一見すると、「回るな」と「回れ」が同時に言われているようにも聞こえます。

この矛盾が生じる理由は、「回る」という言葉が、

  • どこが
  • どの順序で
  • どのスピードで
  • いつまで回るのか

を区別せずに使われているからです。

プロのスイングは「どこが開いて、どこが残っているのか」

インパクト直前のプロ打者を見ると、

  • 骨盤(腰)はすでにピッチャー方向を向いている
  • 胸郭(胸・上体)は骨盤ほど回っていない
  • 腕とバットはさらに遅れて出てきている

という状態が確認できます。

つまり、「腰はしっかり回っているが、胸はまだ残っており、グリップとヘッドはさらに遅れて出てきている」という状態です。

ここが、「腰は回せ、でも開くな」という一見矛盾した指導が、実は同じ現象を別の言葉で表している部分です。

「開いて見える良いスイング」と「本当に開いてしまう」違い

いわゆる「開いてしまう」スイングでは、

  • 骨盤と胸郭がほぼ同時に開く(捻じれが無い)
  • 骨盤や胸郭が適度に減速せずに回り切ってしまう

というパターンがあります。

その結果として、

  • 回転の受け渡しが起きない(捻じれの力を利用できていない)
  • 途中でバットがとまらない(変化球への対応ができない)
  • スイング中の間がとれない
  • ヘッドが出てこない、走らない
  • インパクトで力が伝わらない

という現象が起こります。

問題は「回っているかどうか」ではなく、回転の「順序・スピード・タイミング」が崩れているかどうかです。

回転の「順序・スピード・タイミング」を整理する

① 構え〜テイクバック

構えでは、骨盤と胸郭の向きに大きな差はなく、力みのないニュートラルな状態を作ります。

テイクバックでは「回わし過ぎない」ことが重要です。

特に胸郭は回さず(ホームベース側を向いたまま)、骨盤だけをキャッチャー方向に回します。

この時、後ろ足の股関節に体重を掛けて、これからのスイングに向けた助走をつける意味がありまふ。

ここで胸郭ごと回転してしまうと、

  • 体幹の捻じれは生まれず、パワーは溜まらない
  • テイクバック時点で、既に回転軸が不安定となる

というデメリットが生じます。

② 前への体重移動(下半身リード)

テイクバックの後、スイングはまず、骨盤の回転から始まります。

このとき、胸郭はまだ積極的には回らず、骨盤の回転に対して、相対的に遅れた状態を保ちます。

この骨盤と胸郭の向きの差(これをXファクターという)が広がっていく局面となります。

③下半身リード~インパクト前

骨盤が先に回ったあと、胸郭が遅れて回転を始めます。

ただし、この局面で重要なのは、「胸郭を勢いよく回そうとしない」ことです。

骨盤は先に回り、先に回転スピードが弱まり始める。

胸郭は遅れて回り始め、インパクトに向かって回転が抑えられていきます。

この「胸郭の回転を抑える」という動きこそ、イチロー選手などがよく口にする、「胸をできるだけ遅くまでピッチャーに見せない」という表現だと考思われます。

つまり、胸を動かさないのではなく、動かしながら、スピードを抑えていくイメージです。

④ インパクト前後

インパクトにかけては、

  • 骨盤の回転が遅くなることで、胸郭の回転が追いつき
  • 続いて、胸郭の回転が遅くなることで
  • 腕の動きが追いつき
  • その結果、お臍の前でヘッドが走る

ようなイメージです。

つまり、インパクト時点では、骨盤と胸郭の回旋差(つまり Xファクター)が最小値になります。

形としてはXではなく、ほぼ Iの状態です。

⑤インパクト後~フォロースルー

インパクト後は、抑えられていた骨盤と胸郭の回転が、再び解放されます。

この局面では、Xファクターは反対方向に広がり、回転は出力ではなく、力を逃がすために使われます。

つまり、フォロースルーで体が大きく回るのは、正しい結果なのです。

なぜ「下の回転を止めると、ヘッドが走る」のか?

慣性モーメントの大きい体(骨盤・胸郭)を、先に回させ、その回転を弱めると、その回転の勢いは、慣性モーメントの小さいバットへ移ります。

これは、釣り竿を振るときに、持っている手を止めた方が、先端がよく振れて、遠くへ飛ぶのと同じ原理です。

つまり「開かないからヘッドが走る」のではありません。

身体の回転をタイミングよく一旦遅くするから、その結果として、ヘッドが走るという意味となります。

ツイストスイングが示していること

「骨盤や胸郭の回転を止める(遅らせる)」動きに着目した練習が、ツイストスイングです。

これは、実践での振り方と言うよりは、下を止める上を走らせるという、回転の受け渡しを体感するためのドリルです。

つまり、身体が開くという中でも、特に「骨盤や胸郭が止まらずに回りきってしまうタイプの癖のある人」に適した練習方法と言えます。

体の回転を意識的に改善する時の落とし穴

上記の理屈は理解できたとしましょう。

では、そのように実際の体を動かすことができるのか・・・

それは意識的には不可能、というのが答えとなります。

私自身も、意識的にこれらの動作が入るよう、フォームを矯正しようと試みた。

しかし、意識すればするほど不要な部位にも力が入り、理想通りどころか、普段スムーズだった動きまで阻害される結果となりました・・・

また、この時の体験談として、「体幹の動きというのは実は繊細であり、自分でその動きをつくろうとすると、自分のイメージよりも大きく動き過ぎてしまう傾向がある」ということでした。

だから、

  • テイクバックも前肩がキャッチャー側に入り過ぎたり
  • インパクトまでに骨盤がピッチャー側に開き過ぎたりし
  • 体幹が脱力されていないため、捻じれも不十分で、すぐに連られて肩も回る

という、悪しき結果となりました。

つまり、身体の回転について気が付いたこととして、これは「作る動き」ではなく、各所の脱力と動く順番によって自然に「作られる動き」だということです。

まとめ

「開く/開かない」の細かい理論や理想の動き(強打者の共通項)については、上で述べた通りです。

しかし、大事なことは、そのことを理解した上で、あくまで身体の回転に関するフォームとして、この形が「一つのゴール」と考えることです。

つまり、その動きを「作る」のではなく、自然と「作られる」ように取り組んで欲しいと思います。

最後に、私が具体的に使っている「自然な回転の作られ方」を紹介しておきます。

  • テイクバックでは、前足の膝裏をピッチャー側に見せる
  • スイングし始めは、鋭く一瞬だけ骨盤を回す(素早く腰を切るイメージ)
  • 体幹や上半身は脱力し続ける

私の場合は、上記を意識することで、きれいに捻じれながら、体幹・上半身が理想的な順序で勝手に回ってくれます。

また、他にも個人的に、動き過ぎてしまう癖があるため、それに対して、下記の意識付けも行なっています。

「胸は常にホームベース方向に向けておく」

私の場合は、これにより、余計に体幹が動き過ぎることなくなります。

その結果、下半身主導でしっかりと捻じれができ、インパクト場面でも、適度な開きの結果として、臍前でボールを捉えられるようになりました。

同じ癖のある方は、具体的なアドバイスとして、ぜひ試してみてもらえたらと思います。

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※本記事の内容は、筆者自身の経験と考察に基づく個人的な見解です。すべての選手・指導環境に当てはまるものではありませんので、参考の一つとしてお読みください。

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