バッティング指導の現場で、昔から当たり前のように、使われてきた言葉があります。
「インパクトでヘッドを返せ」
一方で、特に近年のメジャーリーガーのスイング映像を見ると、
- ヘッドを積極的に返しているようには見えない
- フェース(打球面)が長く投球方向を向いている
- いわゆる“こねる”動きがほとんどない
こうしたスイングが、主流になっていることに、気づく人も多いでしょう。
では実際のところ、
- ヘッドは返した方がいいのか?
- それとも返さない方がいいのか?
この回では、「ヘッドを返す(手首を返す)」という言葉を分解し、「バイオメカニクス」の視点からら、その答えを明確にしていきたいと思います。
そもそも「ヘッドを返す」とは何を指しているのか?
まず、混乱の原因は、
「ヘッドを返す(手首を返す)」
という言葉が、複数の意味を一括りにしてしまっている点にあります。
一般的に言われる「返す」という表現には、以下が混在しています。
- 手首を使ってフェースを回す(ロールさせる)
- バットの先端がグリップを追い越す
- インパクト後にヘッドが走る感覚 など
まずは、これらが「意図的にする動き」なのか「結果として起こる動き」なのかを、明確に分ける必要があります。
メジャーリーガーは本当にヘッドを返していないのか?
結論から言うと、
- メジャーリーガーもヘッドは「返っている」
- しかし、「返そう」とはしていない
これが最も正確な表現です。
代表的な例として挙げられるのが、
- ムーキー・ベッツ選手
- フェルナンド・タティス・ジュニア選手
この2人のスイングをスロー映像で見ると、まず目につくのは、
- インパクトに向かってフェースを急激に返していない
- 手首でヘッドを操作するような動きが見られない。
- フェースが長くゾーンに残っている。
という特徴です。


一見すると、「ヘッドを返していない」ように見えるかもしれません。
彼らのスイングが「ヘッドを返していない」ように見える背景には、身体的条件と運動様式の両方があります。
ムーキー・ベッツ選手やフェルナンド・タティス・ジュニア選手は、
- 体幹(胸郭・股関節)周りの柔軟性が非常に高く
- 超体幹主導のスイングであり
- 腕やバットは体幹に振られているだけ
という特徴を持っています。
その結果として、
- 意識的な手首の操作をしていない
- 体の回転が減速するタイミングで自然とヘッドが前にでてくる
スイングになります。
また、両選手が「ヘッドを返していない」ように見えるもう一つの特徴として「手のひらの向きを変えずに振り切る」ということが挙げられます。
つまり、
- トップハンドはパームアップ(手のひらが上向き)
- ボトムハンドはパームダウン(手のひらが下向き)。
- バットのロール要素(前腕回旋)が少ない
この状態を長く維持することで、「ヘッドは走らせながらも、ミートポイントをずらさずに捉えられる」という結果に繋がります。
これらの動きにより、「ヘッドを返さないよう」ように見えるというわけです。
バイオメカニクスから見た「良いヘッドの返り方」
① バットは重心を持つ回転体
バットは単なる棒ではなく、先端側に重心があります。そのため、
- 体が回転するとヘッドが遅れてついてくる
- 体の回転が減速し始めると、ヘッドは勝手に前に出る(ヘッドが追い越す)
という現象が起こります。
② バットのロール前腕の回旋は「結果」
「鋭くヘッドを返せ(手首を返せ)」と聞くと、多くの選手が「手首や前腕を使って、素早く操作しなくてはならない」と勘違いしてしまいます。
ですが、実際には①でも述べた通り、下記のようにヘッドが帰ります。
- 体の回旋によってヘッドが遅れて加速され
- 体そしてグリップの順で減速することで、その先のヘッドが自然と返る
- インパクト後は力を逃がすためにヘッドがさらに返る(主に「ロールパターン」と「パームキープパターン」がある)
ロールパターン:両前腕が回旋し、トップハンドがボトムハンドの上に被さるように、バット自体も同じ方向に軸回転する返し方
パームキープパターン:これは先ほどのムーキー・ベッツ選手らと同様に、手のひらの向きを維持したまま、トップハンドの尺屈とボトムハンドの撓屈の動きによる返し方
※尺屈:手首を小指側に曲げる動き
※撓屈:手首を親指側に曲げる動き
つまり、「鋭くヘッドを返す」ためには
- 体幹を素早く回転させ
- 体幹とグリップをタイミングよく急減速し
- ヘッドが前にでる慣性モーメントを強く働かせる
という動きが重要なのです。
コネてしまう典型的なパターン
自然な返りと対極にあるのが、「意識的に作られた返し」です。
これが「コネる」と呼ばれる動作であり、下記のようなパターンと特徴があります。
①トップハンドの意識的な掌屈(手のひら側に手首を曲げる動き)
- インパクト前にトップハンドを強く折る
- フェースの向きが大きく変わり、打ち損じが多い
②「ロールパターン」と「パームキープパターン」いずれにしても意識的に行う
- インパクトを迎える前に意識的に返してしまう
- インパクト前にフェースの向きが少しずれる
- 特にバットの先端で捉えることが多い
③ インパクト付近でもコック(ボトムハンドの背屈・撓屈)を維持し過ぎる
- ヘッドを立てようという意識が強すぎる
- 手首が固まってしまい、細やかな調整が利かない
これらは、本来起こるはずの「自然なヘッドの返り方」を阻害してしまっているのです。
つまり、これらのコネる動作の共通点としては、「ヘッドを操作しようとする意識による力み」が原因ということになります。
「自然なヘッドの返り」を身につける練習法
ここでは実体験に基づいて、2つのアドバイスを記載します。
① でんでん太鼓素振り
- 体→腕→バットの順番を確認
- あくまで身体の回転につられて、腕やバットが動く
- 体やグリップを減速し、その力でヘッドが勝手に返る感触をつかむ
- これは「返そうとしない練習」
② ピッチャー方向へのフォロー素振り
- 概ね①と同じ
- それに加えて、フォロースルーで「ピッチャーにヘッドの先端を向ける」ようにフィニッシュする
反対に下記のような、多少「返す意識」が必要な場合もあります。例えば、
- 非力でボールを前で捉えにくい
- 押し込みが弱くスライスが多い
このあたりは自分のスイングの状態に合わせて、判断する必要があります。
また、ついでに失敗談も紹介しておきます。
私自身もメジャーリーガーの映像を見て、「できるだけ返さない方がよい」と解釈し、「これぞ強打者の共通項である」と意識し過ぎた過去があります。
この時は徐々に調子を崩してしまい、振り返ってみると、意識しすぎるが故に
- フェースが開いて押し込みが弱くなる
- グリップを減速せずに前に動かし過ぎてしまう
- 弱弱しいスライスする打球が多くなる
といった弊害に、当時は悩まされる結果となりました。
まとめ
ここまでの内容を、ひと言でまとめると
- ×「ヘッドを返そうとする」
- ×「ヘッドを返さないようにする」
- 〇「ヘッドが自然に返る」
ということに尽きます。




つまり、第4話の「体幹の回転」や第6話の「ヘッドを立てる」の動きでも述べた通り、
ヘッドについても、意図的に返すものではなく、体幹主導で中心から末端にかけ、順序よくブレーキがかかることによ、「自然に起こる理想的な動き」であるということです。
第4話|映像では「開いている」のに、なぜ「開くな」と指導されるのか?――理想の回転と減速――

第6話|正しい「ヘッドの立てる」とは?――映像ではヘッドは下がる理由――

今回は、バイオメカニクス的な要素を絡めながら、「ヘッドを返す(手首を返す)」について説明してみました。
みなさんが「返す」について、正しく理解し、各自の練習方法にぜひ活かしてくれることを願っています。
まとめて読みたい
第7話|インサイドアウトは万能か?――脱力と順序が生む「理想の軌道」――

第9話|「軸足重心か?前足重心か?」――なぜ強打者は後傾しているのか――

※【バッティング理論】全話一覧はこちら↓

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※本記事の内容は、筆者自身の経験と考察に基づく個人的な見解です。すべての選手・指導環境に当てはまるものではありませんので、参考の一つとしてお読みください。
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