バッティングにおいて、
- 「軸足で回れ」
- 「前足に乗せろ」
という言葉は、今も頻繁に使われています。
しかし、この議論は、多くの場合は
- フェーズによる違い
- 見た目と実際の力学の違い
が整理されないまま、語られてきました。
本章では、研究知見とトップ選手の動作やコメントを踏まえながら、
「どの局面で、どちらの足が、どのような役割を果たしているのか」
そして、
「なぜ強打者ほど回転軸(体幹)が後傾して見えるのか」
を噛み砕いて解説します。
大前提:床反力を使うことと、重心を動かすことは別
最初に、非常に重要な前提を整理しておきます。
良い打者ほど、「鋭い身体(主に骨盤)回転を生むために、床反力を強く、素早く使おう」とします。
しかし同時に、「重心の位置(=回転軸)は、スイング中に大きくぶれない」という特徴があります。
ここを混同すると、
「強く回転するために、いったん重心を後ろに大きく寄せて、それを前に持ってくる」
という誤解が生まれます。
しかし実際には、
- 床反力 = 足にかかる使う力
- 重心位置は体全体のバランス点
であり、「床反力を強く使う=重心を大きく動かす」ではありません。
トップ選手ほど、
- 力は大きく
- 軸は静か
という状態を作っています。
この前提を踏まえて、フェーズごとに見ていきましょう。
フェーズ① 構え〜テイクバック
「後ろ足に乗る」とは、片足立ちになることではありません。
このフェーズでは
- 「軸足に乗る」
- 「後ろにためる」
と表現されることが多いですが、ここが最初の誤解ポイントです。
【正しいイメージ】
この段階で大切なのは、
- 後ろ足の股関節を軽く屈曲(骨盤が前傾位)
- 一時的に後ろへ移動した体重を、後ろ足の股関節で受け止める
- 後ろ足の股関節周囲のユニフォームにシワができる
という状態です。

感覚的には、「後ろ足で立つ」のではなく、「後ろ足の股関節で体を預かる」感覚が近いでしょう。
荷重配分(前足:後ろ)の目安としては、6:4〜7:3程度というイメージとなります。
【間違ったイメージ】
ここでよくある誤りが、
「体重移動を大きくしようとして、完全に後ろ足に乗り切ってしまう」
荷重配分で言えば、 0:10 のような状態です。
この状態では、
- 後ろ足で片足立ちができてしまう
- 股関節にためるのではなく乗っているだけ
- 次に素早く前へ移動できない
- 右足はのパワーは使えていない
なぜテイクバックは「静止」できないのか?
そもそもこのフェーズは、静止できる構造ではありません。
なぜなら、
- 人体の重心は両足の間にある
- 前足を上げた瞬間、前側の支えが無くなる
- 後ろ足を支点にして、体は前方向へ倒れ込もうとする
つまり、テイクバックで「止まる」「固める」という考え方自体が、本来成り立たないのです。
この時点ですでに、体は次の前方向の動きに向かって、準備を始めていると、理解する必要があります。
フェーズ② 前足の上げ始め〜前足接地直前
前に進む力は、「後ろ足の蹴り」ではなく、「回転モーメント」から生まれる
ここも誤解されやすいポイントです。
前足を浮かせた瞬間に起きているのは、
- 後ろ足に体重を乗せて、強く「蹴る」ことではなく
- 前足の支えを外すことにより、前向きの回転モーメントを解放することです
その結果、骨盤や体幹が、自然に前方向へ動き出します。
右股関節で「前進をコントロールする」
体重が前へ移動するにつれ、後ろ足は外転方向へ角度が広がっていきます。
このとき重要なのが、内転筋群を使った遠心性収縮を働かせ続けることです。
これにより、
- 前への体重移動を重力任せにしない
- 右股関節で「粘り」を作る
- 前に進む程度をコントロールする
という状態が生まれます。

ここでも、「重心を大きく前に運ぼうとする意識」は不要であることがわかります。
当然ながら、この場面では一時的に前足が浮いているため、荷重配分は0:10となります。
フェーズ③ 前足接地〜インパクト
体重は前足、重心は両足の間。だから軸は後傾する。
前足が接地すると、荷重配分は明確に前足優位になります。
前足で地面をしっかり受け止めることで、骨盤は前足の股関節を中心に回転します。
このとき、
- 前足に多くの荷重がかかる
- しかし重心位置は両足の間にあるまま
- その結果、身体の軸は後ろに傾いてバランスを取る

この時の荷重配分としては、7:3〜8:2程度のイメージとなります。
大谷翔平選手の「逆一本足」
大谷翔平選手のスイングで見られる、
「後ろ足が浮き、大きく後傾したインパクト姿勢」
は、意図的に作っている動きではなく、鋭い体重移動と、鋭い骨盤回転の結果として現れたものです。
後傾は「結果」であって「手段」ではなく、後傾だけを真似するものではないということです。
つまり、
- 鋭く体重移動を行い
- 前足でしっかり止め
- 前足の股関節を支点に骨盤が鋭く回転する
これらができていれば、おのずと軸は後傾します。
そして、骨盤の回転が鋭い強打者ほど、この後傾が強く、静止画では後ろ足を軸に回っているように見えるのです。
それが、1990年代にサミー・ソーサ選手が来日した頃に取り上げられた「軸足回転」という表現に繋がります。
しかし、見た目・感覚・力学は常に一致しません。
サミー・ソーサ選手やバリー・ボンズ選手も、見た目は軸足回転です。
しかし、本人の意識は「常に真ん中にバランスがある」と語っています。
まとめ
バッティングで大切なのは、「形(見た目)がどうか?」ではなく、先に述べた、基本的なバイオメカニクスを理解して、必要な動きを考えることです。
これらのバイオメカニクスを理解しておくことで、間違った意識による技術向上の遠回りを防ぐことができます。
また、この体重移動については、実体験からも得た注意点を最後に述べておきます。
この体重移動についても、意識をすると、自分がイメージする以上に動きすぎてしまうものです。
そして、体重移動しすぎる結果として、「重心」つまりは一番スイングに大事な「軸」がぶれてしまい、打ち損じが増えて、結果的に調子を下げてしまったこともありました。
みなさんのバッティング技術向上の一助になれば幸いです。
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※本記事の内容は、筆者自身の経験と考察に基づく個人的な見解です。すべての選手・指導環境に当てはまるものではありませんので、参考の一つとしてお読みください。
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