第9話|「軸足重心か?前足重心か?」――なぜ強打者は後傾しているのか――

バッティング理論

バッティングにおいて、

  • 「軸足で回れ」
  • 「前足に乗せろ」


という言葉は、今も頻繁に使われています。


しかし、この議論は、多くの場合は

  • フェーズによる違い
  • 見た目と実際の力学の違い

が整理されないまま、語られてきました。


本章では、研究知見とトップ選手の動作やコメントを踏まえながら、


「どの局面で、どちらの足が、どのような役割を果たしているのか」


そして、


「なぜ強打者ほど回転軸(体幹)が後傾して見えるのか」


を噛み砕いて解説します。

大前提:床反力を使うことと、重心を動かすことは別


最初に、非常に重要な前提を整理しておきます。


良い打者ほど、「鋭い身体(主に骨盤)回転を生むために、床反力を強く、素早く使おう」とします。


しかし同時に、「重心の位置(=回転軸)は、スイング中に大きくぶれない」という特徴があります。


ここを混同すると、


「強く回転するために、いったん重心を後ろに大きく寄せて、それを前に持ってくる」


という誤解が生まれます。


しかし実際には、

  • 床反力 = 足にかかる使う力
  • 重心位置は体全体のバランス点


であり、「床反力を強く使う=重心を大きく動かす」ではありません。


トップ選手ほど、

  • 力は大きく
  • 軸は静か

という状態を作っています。


この前提を踏まえて、フェーズごとに見ていきましょう。

フェーズ① 構え〜テイクバック

「後ろ足に乗る」とは、片足立ちになることではありません

このフェーズでは

  • 「軸足に乗る」
  • 「後ろにためる」


と表現されることが多いですが、ここが最初の誤解ポイントです。


【正しいイメージ】


この段階で大切なのは、

  • 後ろ足の股関節を軽く屈曲(骨盤が前傾位
  • 一時的に後ろへ移動した体重を、後ろ足の股関節で受け止める
  • 後ろ足の股関節周囲のユニフォームにシワができる


という状態です。


感覚的には、「後ろ足で立つ」のではなく、「後ろ足の股関節で体を預かる」感覚が近いでしょう。

荷重配分(前足:後ろ)の目安としては、6:4〜7:3程度というイメージとなります。


【間違ったイメージ】


ここでよくある誤りが、

「体重移動を大きくしようとして、完全に後ろ足に乗り切ってしまう」


荷重配分で言えば、 0:10 のような状態です。


この状態では、

  • 後ろ足で片足立ちができてしまう
  • 股関節にためるのではなく乗っているだけ
  • 次に素早く前へ移動できない
  • 右足はのパワーは使えていない


なぜテイクバックは「静止」できないのか?


そもそもこのフェーズは、静止できる構造ではありません。

なぜなら、

  • 人体の重心は両足の間にある
  • 前足を上げた瞬間、前側の支えが無くなる
  • 後ろ足を支点にして、体は前方向へ倒れ込もうとする


つまり、テイクバックで「止まる」「固める」という考え方自体が、本来成り立たないのです。


この時点ですでに、体は次の前方向の動きに向かって、準備を始めていると、理解する必要があります。

フェーズ② 前足の上げ始め〜前足接地直前


前に進む力は、「後ろ足の蹴り」ではなく、「回転モーメント」から生まれる


ここも誤解されやすいポイントです。


前足を浮かせた瞬間に起きているのは、

  • 後ろ足に体重を乗せて、強く「蹴る」ことではなく
  • 前足の支えを外すことにより、前向きの回転モーメントを解放することです


その結果、骨盤や体幹が、自然に前方向へ動き出します。

右股関節で「前進をコントロールする」


体重が前へ移動するにつれ、後ろ足は外転方向へ角度が広がっていきます。


このとき重要なのが、内転筋群を使った遠心性収縮を働かせ続けることです。


これにより、

  • 前への体重移動を重力任せにしない
  • 右股関節で「粘り」を作る
  • 前に進む程度をコントロールする


という状態が生まれます。


ここでも、「重心を大きく前に運ぼうとする意識」は不要であることがわかります。

当然ながら、この場面では一時的に前足が浮いているため、荷重配分は0:10となります。

フェーズ③ 前足接地〜インパクト

体重は前足、重心は両足の間。だから軸は後傾する


前足が接地すると、荷重配分は明確に前足優位になります。


前足で地面をしっかり受け止めることで、骨盤は前足股関節を中心に回転します。


このとき、

  • 前足に多くの荷重がかかる
  • しかし重心位置は両足の間にあるまま
  • その結果、身体の軸は後ろに傾いてバランスを取る

この時の荷重配分としては、7:3〜8:2程度のイメージとなります。


大谷翔平選手の「逆一本足」


大谷翔平選手のスイングで見られる、

「後ろ足が浮き、大きく後傾したインパクト姿勢」


は、意図的に作っている動きではなく、鋭い体重移動と、鋭い骨盤回転の結果として現れたものです。

後傾は「結果」であって「手段」ではなく、後傾だけを真似するものではないということです。

つまり、

  • 鋭く体重移動を行い
  • 前足でしっかり止め
  • 前足の股関節を支点に骨盤が鋭く回転する


これらができていれば、おのずと軸は後傾します。

そして、骨盤の回転が鋭い強打者ほど、この後傾が強く、静止画では後ろ足を軸に回っているように見えるのです。


それが、1990年代にサミー・ソーサ選手が来日した頃に取り上げられた「軸足回転」という表現に繋がります。

しかし、見た目・感覚・力学は常に一致しません。


サミー・ソーサ選手バリー・ボンズ選手も、見た目は軸足回転です。


しかし、本人の意識は「常に真ん中にバランスがある」と語っています。

まとめ

バッティングで大切なのは、「形(見た目)がどうか?」ではなく、先に述べた、基本的なバイオメカニクスを理解して、必要な動きを考えることです。

これらのバイオメカニクスを理解しておくことで、間違った意識による技術向上の遠回りを防ぐことができます。

また、この体重移動については、実体験からも得た注意点を最後に述べておきます。

この体重移動についても、意識をすると、自分がイメージする以上に動きすぎてしまうものです。

そして、体重移動しすぎる結果として、「重心」つまりは一番スイングに大事な「軸」がぶれてしまい、打ち損じが増えて、結果的に調子を下げてしまったこともありました。

みなさんのバッティング技術向上の一助になれば幸いです。

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※本記事の内容は、筆者自身の経験と考察に基づく個人的な見解です。すべての選手・指導環境に当てはまるものではありませんので、参考の一つとしてお読みください。

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