第8話|ヘッドは返すべきか?返さないべきか?――手首での操作すべきでない理由――

バッティング理論

バッティング指導の現場で、昔から当たり前のように、使われてきた言葉があります。

「インパクトでヘッドを返せ」

一方で、特に近年のメジャーリーガーのスイング映像を見ると、

  • ヘッドを積極的に返しているようには見えない
  • フェース(打球面)が長く投球方向を向いている
  • いわゆる“こねる”動きがほとんどない

こうしたスイングが、主流になっていることに、気づく人も多いでしょう。

では実際のところ、

  • ヘッドは返した方がいいのか?
  • それとも返さない方がいいのか?

この回では、「ヘッドを返す(手首を返す)」という言葉を分解し、「バイオメカニクス」の視点からら、その答えを明確にしていきたいと思います。

そもそも「ヘッドを返す」とは何を指しているのか?

まず、混乱の原因は、

「ヘッドを返す(手首を返す)」

という言葉が、複数の意味を一括りにしてしまっている点にあります。

一般的に言われる「返す」という表現には、以下が混在しています。

  • 手首を使ってフェースを回す(ロールさせる)
  • バットの先端がグリップを追い越す
  • インパクト後にヘッドが走る感覚 など

まずは、これらが「意図的にする動き」なのか「結果として起こる動き」なのかを、明確に分ける必要があります。

メジャーリーガーは本当にヘッドを返していないのか?

結論から言うと、

  • メジャーリーガーもヘッドは「返っている」
  • しかし、「返そう」とはしていない

これが最も正確な表現です。

代表的な例として挙げられるのが、

  • ムーキー・ベッツ選手
  • フェルナンド・タティス・ジュニア選手

この2人のスイングをスロー映像で見ると、まず目につくのは、

  • インパクトに向かってフェースを急激に返していない
  • 手首でヘッドを操作するような動きが見られない。
  • フェースが長くゾーンに残っている。

という特徴です。

ムーキー・ベッツ選手
フェルナンド・タティスJr選手

一見すると、「ヘッドを返していない」ように見えるかもしれません。

彼らのスイングが「ヘッドを返していない」ように見える背景には、身体的条件と運動様式の両方があります。

ムーキー・ベッツ選手フェルナンド・タティス・ジュニア選手は、

  • 体幹(胸郭・股関節)周りの柔軟性が非常に高く
  • 超体幹主導のスイングであり
  • 腕やバットは体幹に振られているだけ

という特徴を持っています。

その結果として、

  • 意識的な手首の操作をしていない
  • 体の回転が減速するタイミングで自然とヘッドが前にでてくる

スイングになります。

また、両選手が「ヘッドを返していない」ように見えるもう一つの特徴として「手のひらの向きを変えずに振り切る」ということが挙げられます。

つまり、

  • トップハンドはパームアップ(手のひらが上向き)
  • ボトムハンドはパームダウン(手のひらが下向き)。
  • バットのロール要素(前腕回旋)が少ない

この状態を長く維持することで、「ヘッドは走らせながらも、ミートポイントをずらさずに捉えられる」という結果に繋がります。

これらの動きにより、「ヘッドを返さないよう」ように見えるというわけです。

バイオメカニクスから見た「良いヘッドの返り方」

バットは重心を持つ回転体

バットは単なる棒ではなく、先端側に重心があります。そのため、

  • 体が回転するとヘッドが遅れてついてくる
  • 体の回転が減速し始めると、ヘッドは勝手に前に出る(ヘッドが追い越す)

という現象が起こります。

② バットのロール前腕の回旋は「結果」

「鋭くヘッドを返せ(手首を返せ)」と聞くと、多くの選手が「手首や前腕を使って、素早く操作しなくてはならない」と勘違いしてしまいます。

ですが、実際には①でも述べた通り、下記のようにヘッドが帰ります。

  • 体の回旋によってヘッドが遅れて加速され
  • 体そしてグリップの順で減速することで、その先のヘッドが自然と返る
  • インパクト後は力を逃がすためにヘッドがさらに返る(主に「ロールパターン」と「パームキープパターン」がある)

ロールパターン:両前腕が回旋し、トップハンドがボトムハンドの上に被さるように、バット自体も同じ方向に軸回転する返し方

パームキープパターン:これは先ほどのムーキー・ベッツ選手らと同様に、手のひらの向きを維持したまま、トップハンドの尺屈とボトムハンドの撓屈の動きによる返し方 

※尺屈:手首を小指側に曲げる動き

※撓屈:手首を親指側に曲げる動き

つまり、「鋭くヘッドを返す」ためには

  • 体幹を素早く回転させ
  • 体幹とグリップをタイミングよく急減速し
  • ヘッドが前にでる慣性モーメントを強く働かせる

という動きが重要なのです。

コネてしまう典型的なパターン

自然な返りと対極にあるのが、「意識的に作られた返し」です。

これが「コネる」と呼ばれる動作であり、下記のようなパターンと特徴があります。

①トップハンドの意識的な掌屈(手のひら側に手首を曲げる動き)

  • インパクト前にトップハンドを強く折る
  • フェースの向きが大きく変わり、打ち損じが多い

「ロールパターン」と「パームキープパターン」いずれにしても意識的に行う

  • インパクトを迎える前に意識的に返してしまう
  • インパクト前にフェースの向きが少しずれる
  • 特にバットの先端で捉えることが多い

③ インパクト付近でもコック(ボトムハンドの背屈・撓屈)を維持し過ぎる

  • ヘッドを立てようという意識が強すぎる
  • 手首が固まってしまい、細やかな調整が利かない

これらは、本来起こるはずの「自然なヘッドの返り方」を阻害してしまっているのです。

つまり、これらのコネる動作の共通点としては、「ヘッドを操作しようとする意識による力み」が原因ということになります。

「自然なヘッドの返り」を身につける練習法

ここでは実体験に基づいて、2つのアドバイスを記載します。

でんでん太鼓素振り

  • 体→腕→バットの順番を確認
  • あくまで身体の回転につられて、腕やバットが動く
  • 体やグリップを減速し、その力でヘッドが勝手に返る感触をつかむ
  • これは「返そうとしない練習」

ピッチャー方向へのフォロー素振り

  • 概ね①と同じ
  • それに加えて、フォロースルーで「ピッチャーにヘッドの先端を向ける」ようにフィニッシュする

反対に下記のような、多少「返す意識」が必要な場合もあります。例えば、

  • 非力でボールを前で捉えにくい
  • 押し込みが弱くスライスが多い

このあたりは自分のスイングの状態に合わせて、判断する必要があります。

また、ついでに失敗談も紹介しておきます。

私自身もメジャーリーガーの映像を見て、「できるだけ返さない方がよい」と解釈し、「これぞ強打者の共通項である」と意識し過ぎた過去があります。

この時は徐々に調子を崩してしまい、振り返ってみると、意識しすぎるが故に

  • フェースが開いて押し込みが弱くなる
  • グリップを減速せずに前に動かし過ぎてしまう
  • 弱弱しいスライスする打球が多くなる

といった弊害に、当時は悩まされる結果となりました。

まとめ

ここまでの内容を、ひと言でまとめると

  • ×「ヘッドを返そうとする」
  • ×「ヘッドを返さないようにする」
  • 〇「ヘッドが自然に返る」

ということに尽きます。

つまり、第4話の「体幹の回転」や第6話の「ヘッドを立てる」の動きでも述べた通り、

ヘッドについても、意図的に返すものではなく、体幹主導で中心から末端にかけ、順序よくブレーキがかかることによ、「自然に起こる理想的な動き」であるということです。

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今回は、バイオメカニクス的な要素を絡めながら、「ヘッドを返す(手首を返す)」について説明してみました。

みなさんが「返す」について、正しく理解し、各自の練習方法にぜひ活かしてくれることを願っています。

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※本記事の内容は、筆者自身の経験と考察に基づく個人的な見解です。すべての選手・指導環境に当てはまるものではありませんので、参考の一つとしてお読みください。

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