第5話|縦振りの罠――「やるもの」ではなく「そう見えるもの」

バッティング理論

近年、バッティング理論の中で「縦振り」という言葉が急速に広まりました。

  • バットを水平に振らない
  • ヘッドを下向きに入れる
  • ボール軌道に縦に入っていく

そして、

  • 「凡打が減る」
  • 「打球が上がりやすい」
  • 「フライボール革命と相性がいい」

といった、非常に魅力的な説明が添えられることも多くあります。

ですが――縦振りには、あまり語られない大きな誤解と罠が存在します。

縦振りは「やるもの」ではなく「そう見えるもの」

第3話(以下のリンクを参照)でも説明した通り、バットヘッドは非常に重いため、スイング中には「思っている以上に、必ずヘッドは下がる」

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これは技術ではなく、物理的な必然です。

だからこそ、

  • 力のあるプロ野球選手
  • 体幹回転が強いメジャーリーガー

であっても、スイングを静止画で見ると、ヘッドが大きく下がっているように見えるのです。

しかし、ここが決定的に重要なポイントです。

実は、彼らの多くは、「ヘッドを下げないように」と意識した上で、あの形になっているのです。

ヘッドは重いため、放っておいても、勝手に下がります。

だからプロの選手ほど、

  • グリップを前に出す
  • ヘッドが下がらない
  • ヘッドを立てる

という意識を持った結果として、それでもなおヘッドが下がって見えるのです。

また、特に外国人選手は日本人に比べて、体幹をホームベース側に大きく傾けてスイングする選手が多く傾向があります。

マイク・トラウト選手のホームランシーン

例えば、マイク・トラウト選手のインパクト姿勢を見ても、確かにバットヘッドが下がっているように見えます。

ただ、重要な注意点としては、腕や手の動きでヘッドを下げているのではないという点です。

つまり、あくまで肩のラインとバット軌道は水平であり、体幹の傾きによって作り出されているのです。

しかも、本人はインタビューで、「ヘッドが下がらないよう、ヘッドを立ててグリップからバットを振り下ろすようなイメージで振っている」と語っている。

私自身も、始めは「やっと強打者の共通項をみつけた!?」という思いで、実際に2年にわたり、縦振りを実践し、その検証を行いました。

「垂直に振れば凡打が減る」は成り立たない

ここで、よく聞く「縦振り」のメリットについて、

「縦に振れば、上下方向のズレにも強い上に、左右方向にズレても、凡打がフェアグランドに飛びにくい」

だが、冷静に考えてみてください。

これはあくまで、バットを文字通り垂直に振った場合の理論です。

例えば、仮に斜め45度まで傾けることができたとしても、結局、フェアグランドに打ち損じのゴロやフライが飛んでしまいます。

そもそも――人間がヘッドを意識的に下げたところで、実際のスイングは垂直には程遠い。

先ほどのマイク・トラウト選手の画像を見ても、あれだけ体幹を傾けても、バットの角度は30〜40度がやっとであることが、よくわかると思います。

つまり、身体の構造や力学を考えると、“垂直に振る”こと自体が不可能なのです。

つまり、「垂直で凡打が減る」という前提そのものが、実際の人体構造とスイングでは成立していない理論ということなのです。

フライが上がっても、打球が伸びない理由

縦振りを意識しすぎると、確かにフライは上がりやすくなります。

ですが、問題は打球の質です。

  • ヘッドを下げにいく
  • 早くにコックが解けてしまう

この状態で当たった打球は、

  • 打球速度が出ない
  • 有効なバックスピンがかからない

結果として、「揚力が十分に働かず、フライは上がるが、伸びない」という現象が起きるのです。

「角度はついたのに、失速するフライ」

これが、縦振り信仰が生みやすい典型的な凡打です。

高めが打てなくなるのは理屈的に当然

縦振りを意識した打者が、共通して口にするのが、

「低めはいいけど、高めが全然打てない」

という感覚です。

これも、理屈で考えれば当然です。

高めのボールを「縦(垂直)に近い形」で捉えようとするなら、それ以上にグリップの位置を高くしなければならない。

しかし、

  • 実戦のスイングスピード
  • 肩・肘・手首の可動域
  • タイミングの制約

これらを考えると、そんな打ち方は現実的に不可能であり、そもそも成立しません。

結果として、

  • 高めは振り遅れる(差し込まれる)→ その結果、高めは見送るしかなくなる
  • 高め専用の別の打ち方をしなくてはならない(実際には一瞬の判断で打ち方を変えることは人間の能力的に不可能)

という弱点を、自ら作り出してしまうのです。

私自身も、縦振りを実践する中で、低めはむしろ縦振りがマッチする場面もあり、それは新しい感覚でした。

そのため、「縦振り」を、しばらく続けることができたのも、このおかげだったと思います。

しかし、上記にある通り、高めの攻略にはとにかく頭を悩ませました・・・

その結果、辿り着いた結論として、やはり極端な縦振りという意識を辞め、原点に立ち返りました。

その結果、以前のように高めに対応できるように戻りました。

その実体験からも、できることなら皆がそのような「縦振りの罠」にはまり、遠回りしてしまわないことを願っています。

また、プロ野球選手ではオリックスバファローズの杉本選手も縦振り実践者として有名です。

ですが、実際に縦振りを取り入れて、以降の成績がいまひとつ振るっていないことも、情報の一つとして付け加えておきます。

本当に大切なのは「縦振り」ではない

では、何が重要なのか。

それは、「インパクトでヘッドが立ち上がる前に、自然なヘッドの落ちが描けているか」です。

ヘッドがトップハンドの腕に沿って落ちるフェーズ
ヘッドが落ちる切る直前のフェーズ
ヘッドが立ち上がってきているフェーズ

しかもこれらの動きは、

「意識的に作る動きではなく、適度な脱力によって、自然と生まれる一瞬の縦振りフェーズ」です。

まとめ

縦振りは、「結果」であり「方法」ではありません。

縦振りとは、

  • 凡打を減らす魔法ではない
  • 強いフライを量産する技術でもない

縦振りとは、正しい回転と慣性、そして脱力の結果として、そう“見える”現象なのです。

ヘッドを下げにいった瞬間、

  • 威力は落ち
  • 高めに弱くなり
  • 伸びないフライ

が多くなります。

もし、あなたのスイングに、脱力と体幹主導により、インパクト前に一瞬でもヘッドが落ちる瞬間があるのであれば、縦振り要素はそれで十分ということです。

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※本記事の内容は、筆者自身の経験と考察に基づく個人的な見解です。すべての選手・指導環境に当てはまるものではありませんので、参考の一つとしてお読みください。

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