野球の打撃指導で、長年繰り返されてきたテーマがあります。
- 「ダウンスイングで打て」
- 「いや、アッパースイングだ」
近年は特に、
- フライボール革命
- 縦振り
- インサイドアウト
といった言葉が広まり、アッパー寄りが正解のような空気すらあります。
ですが、この問いに対して 「そもそも、この問いかけ自体がズレている」というところから話を始めます。
すべてのスイングは「3つのフェーズ」を通る
まず大前提として、これは強く言い切れます。
すべてのスイングには
- ダウンスイング・フェーズ
- レベルスイング・フェーズ
- アッパースイング・フェーズ
この3つが必ず存在します。
つまり、「この人はダウンスイング」「この人はアッパースイング」という一種類での分類は、本来できないのです。
スロー映像を見れば、どんな強打者でも
- 必ず一度ヘッドは落ち
- レベルを通り
- 最後は上に抜けていく
これは例外がありません。(下記の画像参照)



私自身は「ダウンで育った」打者だった
ちなみに、私自身は 完全にダウンスイングで育ってきたタイプです。
- 上から叩け
- ゴロを打て
- フライは悪
そう教えられてきました。
ところが、「メジャーのスロー映像」や「強打者のバット軌道」を見ると、「一旦、明らかにヘッドが落ちてから上がっている」これが共通項として映る。
「やっぱりアッパーが正解なのか?」
そう思って、私もそこに飛びつきました。
プロやメジャーの選手は口を揃えてこう言う
ところが面白いことに、 プロ野球選手やメジャーリーガーのコメントを読むと、
- 「ヘッドは下げないように振っている」
- 「立てたまま出している感覚」
こう語る選手が非常に多い。
スロー映像では下がっているように見えるのに、 本人の感覚は下げていない。
では、アッパー・ダウン論争とは一体何者なのか?
「良いダウン」と「悪いダウン」
私が試行錯誤の末に行き着いた答えは、 とてもシンプルでした。
まずは、ダウンスイングから整理します。
ダウンフェーズにも「良いダウンフェーズ」と「悪いダウンフェーズ」がある。
「良いダウン」の条件は、はっきりしています。
- ボトムハンド(例:右打者の左手)のコック(手首の背屈や撓屈)が保たれている
- グリップがヘッドより先に進む
この状態であれば、 ヘッドは勝手に遅れて、サイクロイド(曲線)を描きながら、ヘッドは自然と落ちていきます。
これは、インサイドからしなりを使い、パワーを溜めた良いダウンです。
一方で、こんな「悪いダウン」もよく見かけます。
【コックがほどけたダウン】
- 早くヘッドが出る
- アウトサイドから入る
- ドアスイングになる
【早期に右肩が出てくるダウン】
- 上体から打ちにいく
- グリップが止まりやすい
- ヘッドを外から振り下ろす形になる
【ミートポイントに一直線のダウン】
- 見た目は「鋭い」
- インパクトゾーンが極端に狭い
- 「大根切り」と言われるダウン
これらの結果として、インサイド軌道を失い、サイクロイド曲線の力を利用することもできません。その結果、理想的なレベルフェーズに移りにくいカタチとなります。
「良いアッパー」と「悪いアッパー」
ダウンフェーズが終わると、レベルフェーズに移行し、そのあとアッパーフェーズに移ります。
その流れの中で、「良いアッパー」として最も重要なことは「一度下がったヘッドがしっかり“立ち上がってくる”こと」です。
一方で「悪いアッパー」と呼ばれる動きも存在します。
バットはヘッドが重いため、 自分のイメージ以上に下へ落ちようとする。その結果、
- ボトムハンドの手首の角度が負ける(尺屈・掌屈方向に曲がってしまう)
- ヘッドの重さに負けて前脇が開く(いわゆるチキンウィング)
これらを含んだスイングが、「悪いアッパー」と呼ばれるものです。
自分のバッティングを失った理由
ここで一度、私自身の話を挟みます。
私はもともと、 ダウンスイング系で育ってきた打者でした。ところが・・・
- フライボール革命
- 縦振り
- インサイドアウト
- 強打者のスロー映像
これらの理論や映像に翻弄され、極端な「悪いアッパースイング」の癖を身につけてしまった時期があります。
この時期の私は
- 高めがまったく打てない
- ストレートに差し込まれる
- ヘッドが遅れて出てこない
完全に自分の打撃を見失っていました。
ただし厄介だったのが、悪いアッパースイングでも「低めは上手く拾えてしまう」という点です。
低めはそれなりに打てる。だから「全部が間違い」とも言い切れない。
この中途半端な成功体験が、 正解と不正解の判別をより難しくしていました。
絶対に見落としてはいけない前提
ここで、どうしても強調しておきたい前提があります。
バットは思っている以上に「ヘッドが重い道具である」という事実です。
構造上、私たちがイメージしている以上にヘッドは勝手に下がる。これは避けられません。
この前提を忘れて、頭の中の理想的なフォームばかりを追い求めすぎると、いつのまには「悪いダウン」の闇に飲み込まれてしまいます。
だからこそ私は、多くの人は「少しヘッドを立てる」くらいで、ちょうどいいと感じています。
それでもヘッドは、 結果として十分に下がります。
良いダウンスイングのヒント
ここまで理屈を並べてきましたが、 ここで実用的なアドバイスを入れておきます。
良いダウンフェーズを作るために意識するポイントは多くありません。
- ボトムハンドのコックは維持する
- 力まず下半身の力で動き始める(上半身で振ろうとしない)
- ヘッドに対してグリップが先行
これだけです。
力が抜けていれば、バットのヘッドは自分で落とそうとしなくても、自然とトップハンド側の上腕付近に沿うように落ちてきます。このときヘッドは、図せずしてサイクロイド曲線を描きます。
これが、良いダウンフェーズです。
良いレベルスイングのヒント
ダウンフェーズをうまく通過すると、 スイングは自然にレベルフェーズへ入ります。
そしてこの後、 良いアッパーフェーズに移行するためのポイントがあります。
このフェーズでは、
- 骨盤や胸郭の回旋は一旦落ち着き
- グリップは体の近くを通す
- グリップの移動も相対的に遅くなり、ヘッドが追い越してくる
そんなイメージです。
良いアッパースイングのヒント
良いアッパーフェーズでは、
- グリップエンドは腹の近くに置いたまま止める
- ボトムハンドのコック(手首の角度)を維持したまま
- ボトムハンド脇を締め「肩関節の外旋」を使って
左腕を軸に、クルッとヘッドを立ちあげる(走らせる)イメージです。
ここに、ヘッドの重みが加わることで、 結果としてちょうど良い軌道が生まれます。
重要なのは、「下から上にこね上げる」ではないことです。
もう一つ忘れてはいけないこと
もちろん実際のスイングは、下半身、体幹、胸郭がより複合的に連動し、 もっと複雑な動きになります。
そのため、上記のような細かい理論は抜きにして、
- ダウンスイング傾向が強い選手にはアッパー気味の練習を
- アッパースイング気味の選手にはダウン気味の練習を
させれば、ちょうどバランスの良いスイングに強制されるという事実も確かです。
だから、どちらの論者も存在し、実際にどちらも効果がある場合があるのです。
これらのことを踏まえて、ダウン・アッパーという言葉を捉えて欲しいと思います。
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※本記事の内容は、筆者自身の経験と考察に基づく個人的な見解です。すべての選手・指導環境に当てはまるものではありませんので、参考の一つとしてお読みください。
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